困難を与えることで魅力的なアクションが生まれてくる
―先ほどアヴちゃんがアクションのお話をされましたが、超高速列車の中という狭い密室空間にもかかわらずキレがあるというのは、本作の大きな特徴かと思います。
アヴちゃん:広いとごまかせることが、今回はそうはいかない。センスがすごく試されていると思います。流れもパーフェクトでした。
リーチ:確かに、広い場所でアクションをやる方が楽ではあるんですよね。でも今回は親密なキャラクターをベースにしたファイトシーンといいますか、アクションを通して「このキャラクターが誰であるか」を伝えていくし、ドラマも展開していくつくりを施しています。
アヴちゃん:列車の中は狭いけど世界としてはすごく大きくて、そのギャップが面白かったです。
『ブレット・トレイン』
リーチ:アクションのコレオグラファーとしては、ファイトシーンを構築していく際にあえて困難を与えていくんです。自分の限界と向き合わさせることによって、解決しなければいけないという状態に持っていく。『ブレット・トレイン』であれば、狭い空間でどう動くか。そのためにはまず、観客が2時間いても飽きないステージを作る必要が生じる。それぞれのアクションが違った雰囲気に見えるような車両を考えていきました。
新幹線の車両とは違ってサイケな車両もあれば、豪華なバーが設置された車両もある。エンジンルームも含めて、様々なステージがある方がキャラクターも転がしやすいし“道のり”ができて面白いんですよね。
アヴちゃん:あんな列車があったら、乗りたいです。
リーチ:作ったほうがいいですよね(笑)。
アヴちゃん:絶対に。搭乗員さんが「お飲み物は……」と勧めてくれるのもすごく良かったです(劇中では、福原かれんが演じている)。
アヴちゃん(女王蜂) デヴィッド・リーチ監督
何が起こるかわからない状態が、臨場感につながる
―アヴちゃんが惹かれたとおっしゃっていた“流れ”は、本作の軽快かつ臨場感あふれるテンポ感にも通じるかと思います。
リーチ:技術的な面の答えと、クリエイティブな面の答えがあります。技術面でいうと、超高速列車のセットの外にLEDスクリーンを設置し、『ブレット・トレイン』の世界での東京から京都に向かう道のりの映像を投影して撮影しました。列車の速度に合わせて高速で流れていくように調整しているため、実際には動いていませんがスピード感を体感できるのです。
そのことが、俳優たちにも臨場感をもって演じられる効果をもたらしました。これまでだったら、グリーンバックで演じるため想像力を駆使しなければならなかったのが、実際に風景が流れているなかで演じられるようになった。これは大きかったと思います。
クリエイティブな部分でいうと、演技や編集、そしてアヴちゃんたちが携わってくれた音楽の力を借りて、観客が現実逃避できるように作り込んでいきました。カメオ出演もあれば、感傷に浸るようなシーンの次にギャグシーンがあったり、次に何が起こるか全くわからないのが本作の特徴。それがスピード感や臨場感につながったのではないでしょうか。
『ブレット・トレイン』
―そういった“超エンタメ”に到達されるまでには、相当なご苦労があったのではないでしょうか。
リーチ:ええ、本当に……(笑)。大変でしたが、毎日様々なクリエイターとコラボレーションできることに喜びを感じてもいました。僕は「ステイン・アライヴ」を歌えないし、照明も作れない。ただ、演出ならできる。自分のもとに集まった美しいものたちを、己のプリズムを通してキュレーションできることは、自分にとっては楽しくて仕方がないんです。
アヴちゃん:監督って、大変なお仕事ですね……。
リーチ:でも、僕にとっては最高の仕事です!
アヴちゃん(女王蜂) デヴィッド・リーチ監督
―最後に、初対面のご感想を教えて下さい。
リーチ:(アヴちゃんに)お先にどうぞ(笑)。
アヴちゃん:(笑)。写真撮影もすごくフィットしてスッと臨めましたし、私自身も規模感は違えど自分で作ったものを世の中に出している者として、お話していて共鳴する部分がたくさんありました。
とてつもないハリウッド作品であり、多くの方の努力が結実した作品の監督とお会いできて、この距離でお話しできてとても刺激になりました。いつかまたお会いしてお仕事ができるように私も頑張っていこうと思います。
リーチ:僕も同じ気持ちです。ぜひまた一緒に仕事をしたいです。
アヴちゃん:やった! 英語を頑張ります。
リーチ:僕は日本語を頑張ります(笑)。
アヴちゃん:やさしい!
リーチ:僕もアヴちゃんに会えて、すごく満ち足りた気持ちです。作品を通して「素晴らしい方だろうな」と思っていたのが、実際お会いして「やっぱり!」という気持ちです。ありがとうございます。
アヴちゃん:こちらこそ、ありがとうございます!
デヴィッド・リーチ監督 アヴちゃん(女王蜂)
取材・文:SYO
撮影:白井晴幸
『ブレット・トレイン オリジナル・サウンドトラック』
デジタル版:2022年08月05(金) 発売
国内盤CD:2022年09月21日(水)発売
SICP-6472 2,400円+税
『ブレット・トレイン』は2022年9月1日(木)より全国公開
『ブレット・トレイン』
世界で最も運の悪い殺し屋レディバグ。謎の女性から電話越しにブリーフケースを奪うよう指令を受けたレディバグは、気合たっぷりに<東京発・京都行>の超高速列車に乗り込む。しかし、それは彼にとって人生最悪な120分の始まりだった。次々と乗りこんでくるキャラ濃すぎの殺し屋たちが、全く身に覚えのないレディバグに襲い掛かる。簡単な指令を果たしてすぐ降りるだけの任務のはずだったのに…… 時速350kmの車内で繰り広げられる、決死のバトル! 予期せぬ最悪が折り重なり、終着点・京都に向けて<絶望>が加速する――
原作:伊坂幸太郎「マリアビートル」(角川文庫刊)
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:ザック・オルケウィッツ
出演:ブラッド・ピット
ジョーイ・キング アーロン・テイラー=ジョンソン
ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路
真田広之 マイケル・シャノン ベニート・A・マルティネス・オカシオ
サンドラ・ブロック ローガン・ラーマン ザジー・ビーツ
マシ・オカ 福原かれん
制作年: | 2022 |
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2022年9月1日(木)より全国公開