中央線・高円寺駅(東京)から徒歩2分、地下1階にひっそりと佇む「Cafe&Bar BIG FISH」。映画好きが集い思う存分映画の話ができる、本格的な設備のホームシアターを備えた映画好きのためのバーだ。そんなBIG FISHのオーナー・槙原圭亮さんに、お店の成り立ちから映画へのこだわり、自慢のメニューや映画とのコラボ、そして新型コロナウイルスの影響まで語っていただいた。80~90年代の映画好きならば共感必至、絶対お店に行ってみたくなってしまうインタビューをどうぞ。
コロナ禍を乗り越えられたのは支援者のおかげ! DIYリニューアルで営業再開
―2020年3月に取材させていただいてから数ヶ月が経過し、新型コロナウイルスの感染拡大によってお店にも影響があったかと思いますが、どういった変化がありましたか?
いやあ、大打撃ですよ。4月から営業自粛しテイクアウトのみ、売上は10分の1になり大ピンチでしたが、そんな時にクラウドファンディングを実施して、皆さんのおかげでなんとか耐えることができ、7月1日よりリニューアルオープンしました。
高円寺駅から徒歩2分という好立地!「cafe&bar BIG FISH」のネオンが目印
―クラウドファンディングには、どんな反響がありましたか?
本当に感謝しかありません。自分が思っていた以上に沢山の方々からご支援いただいただけでなく、とても温かいお言葉を多くの方からいただいて、すごく励みになりました。自分で作った店だけど、沢山の人に愛されるこの店は自分一人だけのものではないですから。絶対にこの空間を潰すわけにはいかない! と燃えさかって、休業中の3ヶ月間を利用して、営業再開後にはなんとか喜んでもらいたいとセルフでお店をリニューアルに向けて工事しました。今ではメニューも増やし大好評です!
映画好きと映画の話をしたくて始めた本格“映画”ダイナー!
―まず、お店を始めようと思った経緯を教えてください。
サラリーマンをやっているときに思いついて、当時は岡山に住んでいたのですが、東京に引っ越して物件を探しはじめました。ディズニーランドのように、アトラクションに並んでいるときから楽しめるような、世界観を入り口から作れる物件を探して辿り着いたのが、高円寺のこの物件でした。その頃はお金もなかったので、ガスや電気などの危ないところ以外は、ホームセンターで木材を買うなどして内装も自分たちで作りましたね。
リニューアルの際にオーナーの槙原さんが手作りした『シャイニング』に登場するホテルのカーペット柄のテーブル
もともと収集癖があって、15歳ぐらいの頃から映画のDVDやブルーレイを集めていました。映画好きのおじちゃんから『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)、『エイリアン』(1979年)の3本を貰いましたね。「『フロム・ダスク・ティル・ドーン』は面白いし好きになるから!」と渡されましたが、かなり気に入りました。今思うと子供にあげる映画ではないですが(笑)。DVDを集めて飾ることにハマっていって、20歳の頃には500本は持っていたと思いますし、今では3,000本近く所有しています。
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』に登場するナイトクラブ「ティッティー・ツイスター」のネオン
それから、せっかく家でDVDを観るなら大きな画面で観たいと思いました。臨場感も欲しいと思いスピーカーも置くようになって、そういったことが膨れ上がっていって、ホームシアターオタクに寄っていきました。新作映画を追い求めるのではなく、好きな『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を何度も何度も観るようなタイプで、4Kレストア版が出れば買い、スピーカーの音を調整して、誰も観られない『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を作って楽しんでいましたね。そして、いつしか他の人にも観てもらいたいと考えるようになり、お店を開きたいと思ったんです。それと地方出身なので、映画談義ができる場所なんてどこにもなかったし、俳優の名前を挙げても共通言語として通用しないから、話す場所があったらいいなと。映画は観た後に話すのが楽しいと思うんですよ。
Netflixオリジナルシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」に登場する架空の街「ホーキンス」の標識
―お店のコンセプトは80年代、90年代ですか?
そうですね。自分が生まれた年代なのでリアルタイムではないのですが、幼いながらも観ていた映画もあって、思春期になってその映画を観返して、すごく好きになりました。自分の中では一番輝いている年代なので、永遠に好きなんだと思います。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』、『トゥルー・ロマンス』(1993年)、『パルプ・フィクション』(1994年)に影響を受けましたし、中でもクエンティン・タランティーノ監督が好きですね。
1994年公開当時の『パルプ・フィクション』のポスターや、ブルース・ウィリスなどハリウッドスターの直筆サイン
『パルプ・フィクション』は、ただ面白かっただけでなくて、ファッションとか、構成の新しさも含めて初めて観た時とてもワクワクして、かなりアドレナリンが出ました。毛色は違いますが、ティム・バートン監督もとても好きです。
『グレイテスト・ショーマン』ヒュー・ジャックマンの直筆サイン
―映画コンセプトのお店の中でも、音と映像へのこだわりが特に強いですね。
2018年の国立映画アーカイブで『2001年宇宙の旅』(1968年)のフィルム上映を観たときに感動を覚えたように、映画はスマホの画面ではなくてマスターに近づける、もしくは超える映像や音の環境を作りたいと思っています。
『バットマン リターンズ』(2004年)のミシェル・ファイファー演じるキャットウーマン/セリーナ・カイルの部屋に飾られたネオンサイン「HELLO THERE/HELL HERE」
こだわりの野外上映でビッグ・カフナ・バーガーとキューバサンドを提供!
―野外上映などの活動も行われていますね。
『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(2014年)の上映にはお店の機材も持って行って、かなり頑張りましたね。『キングスマン』(2014年)のハリーの部屋に置いてあるスピーカー(英国の音響メーカーB&W社製803D)の色違いのものをお店に常設しているのですが、このスピーカー2本とアンプで上映しました。野外は吹き抜けていて音の反響がなく、スーンと音が通るので、音がこもる感じがなくてめちゃくちゃ音質が良かったですよ(笑)。それとキューバサンドも販売していたので、焼きながら「ええ音だな」と思いながら観ていましたね。
1,000万円以上の費用がかかったオーナーの槙原さんこだわりのホームシアター(120インチのスクリーンに、7.2.4chのスピーカー)!
―フードとドリンクも映画コンセプトのものを提供されていますね。お店を始められる前からこれは出したかったというメニューはありますか?
『パルプ・フィクション』に出てくるビッグ・カフナ・バーガーですね。それと『シェフ 三ツ星フードトラック はじめました』に出てくるキューバサンド。野外上映をやったときは本当に夢が叶ったと思いましたよ。これまで2,000個近く作りましたが、なかなか上手くできるまでに時間がかかりましたね。
「cafe&bar BIG FISH」人気メニューのキューバサンド
―タコスもお店の名物メニューとして評判のようですね。
ダニー・トレホがタコス好きで、LAに「トレホズ・タコス」というお店を出しているんです。自分もやってみたいなと思って、タコス協会の人に作り方を教わりました。メキシコの本場のタコスは、トウモロコシの粉から作っているので少しパサつきますが、トウモロコシの風味を感じられてとても美味しいんです。
看板メニューのタコスはトルティーヤから手作り!
お客様が飽きないように白トウモロコシ、黒トウモロコシを数か月周期で変えていますね。具はオレンジジュースで豚肉を煮込んだものとか、異国を感じられていいですよ。タコスは皮や具を変えることができるので色んなバリエーションが作れるところも面白いです。それに軽くつまめるので、ビールにもよく合いますね。
店内にてダニートレホ グッズ(コーヒー豆各¥3,000、トート¥5,000、キャップ¥5,500)販売中!
―ビールも豊富に揃えられていますね。これも映画繋がりでしょうか?
そうですね。個人的に好きなのも仕入れていますが、映画繋がりが多いですね。気に入っているのは『ダンボ』(1941年)に出てくるピンクの象がラベルに描かれているベルギーの「デリリウム」ですかね。海外では酔っぱらっているとき最初に幻覚でピンクの象が見えるそうで、それにまつわるデザインです。「デリリウム」はオランダ語で「アルコール中毒による震え」という意味があって、ビールなのにアルコール度数が8.5%もあるんです。
ベルギービール「デリリウム」
あとは、こちらもベルギービールで、ステラ アルトワという『ラ・ラ・ランド』(2016年)でセバスチャンとミアがデートの際に飲んでいたものも置いてあります。このビールは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)でマイケル・キートンが演じたリーガンが控室で飲んでいました。中でも1番のオススメは、ギネスビールのドラフトです! みんな大好き『キングスマン』の、バーで不良たちをボコボコにする前にいつも飲んでるやつです。ギネスはビン、缶、ドラフト全て味が違いますが、このドラフトはコクがあって泡がすごくクリーミーで本当に美味しいです。ビールが苦手な僕もグビグビ飲めますよ。
英国ビール「ギネス オリジナルエクストラスタウト」
ほかにもハリウッドセレブがプロデュースしているお酒もいくつかあって、ジョージ・クルーニーの「カーサミーゴス(テキーラ)」、ライアン・レイノルズの「アビエーション(ジン)」、マシュー・マコノヒーの「ワイルドターキー ロングブランチ(バーボン)」なども揃えています。
(左)ライアン・レイノルズの「アビエーション(ジン)」、(右)ジョージ・クルーニーの「カーサミーゴス(テキーラ)」
『ミッドサマー』とのコラボに大反響! お次はフードトラック展開も?
―『ミッドサマー』(2019年)とのコラボでBIG FISHを知った方も多くいると思いますが、どんな反響がありましたか?
これまでで一番反響があったと思います。毎日、白いホルガの格好で来店されるお客さまがいました。女性のお客さまが特に多かったですね。僕たち自身も祝杯をあげたいと思って、花冠をつけて「ハッピーミッドサマー!」とお客さんを歓迎して、ミートパイやオリジナルカクテルを提供したり、コースターや儀式用の石碑を作ってフォトスポットを用意するなど、ファンに寄り添ったコラボを展開したいと思い、いろいろ企画しました。
※『ミッドサマー』とのコラボは2020年3月31日で終了
??????????#ミッドサマー
— Cafe&Bar BIG FISH@リニューアルオープン!! (@BIGFISH_koenji) April 1, 2020
3/31 無事タイアップ終了致しました。
沢山の方々に来ていただいて、大好きなミッドサマーについてお話できて、最高に幸せでした。
パイやコースターも喜んでいただけて、嬉しかったです。
改めてありがとうございました。
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―お店をオープンして良かったことは?
映画が大好きなお客さまに来て頂けるので、映画の話をする機会も多いですし、映画の知識をいっぱい貰いましたね。僕にとっては財産です。
―今後の計画や、お客さまへのメッセージなどあれば教えてください。
改めまして、この場をお借りしてご支援いただいた方々にはとても感謝しております。今、僕たちがここに立っていられるのは全て皆さまのおかげです。これからも映画ファンに喜んでもらえる夢の空間を作るために日々精進します! 次の目標は昨年末から計画していた大型店を作ることなのですが、こんな状態になってしまったので、かわりに映画『シェフ三つ星フードトラックはじめました』みたいな移動販売がやりたいですね。そうしたら遠方の方々とも会えるし、なんか楽しそうなんで!
「cafe&bar BIG FISH」オーナーの槙原圭亮さん(右)と店長の茉莉花さん(左)